出演者紹介





チェリスト、作曲家
ジョヴァンニ・ソッリマ Giovanni Sollima
1962年イタリア・シチリア州パレルモ出身。世界最高峰のチェロ奏者兼作曲家。音楽一家に生まれ、幼い頃から音楽や楽器に囲まれて育つ。特に作曲家兼ピアニストであった父エリオドロ・ソッリマの影響で、幅広い音楽性を身につけた。パレルモ音楽院でジョヴァンニ・ペリエラからチェロを学び、優秀な成績で史上最年少で卒業。その後シュトゥットガルト音楽大学とモーツァルテウム音楽大学で、チェロをアントニオ・ヤニグロに、作曲をミルコ・ケレメンについて学んだ。ジャンルを超えた幅広い活動で知られ、クラシックはもちろん、古楽、バロック、オペラ、ジャズ、ロック、即興演奏まで、400年に渡る音楽の歴史の旅を自らの音で綴り、さらにヨーロッパ~中東~アフリカに及ぶ地球上のあらゆる民族音楽まで飲み込んだ唯一無二の演奏スタイルと作風を持つ。音楽のテーマはスピリチュアルな大自然のエレメントや歴史、文化、環境・社会問題まで多岐にわたりつつ、圧倒的な表現力と高純度の感性で美しい広大なスケールの音楽を生み出し続けている。これまでにヨーヨー・マ、フィリップ・グラス、クラウディオ・アバドなど数多くの巨匠と共演し、彼らからの絶賛を集めている。また、カーネギー・ホール(NY)やクイーン・エリザベス・ホール(ロンドン)、シドニー・オペラ・ハウスなど世界中の一流ホールで公演を行っている。近年ではマリオ・ブルネロや2CELLOSをはじめ、世界中のチェリストがソッリマの楽曲(「チェロよ、歌え!」「ラメンタチオ」「アローン」etc)をレパートリーにしており、チェロの可能性を広げているだけでなく、作曲家と演奏者の垣根をも取り外しつつある。さらに後進の育成にも力を注いでおり、サンタ・チェチーリア音楽院で教鞭をとっているほか、ジャンルやキャリアを超え、100人のチェリストを集めてクリエーションとコンサートを行う「100チェロ」という活動も行っている。 2019年、日本で初めてドヴォルザークの「チェロ協奏曲」(指揮:藤岡幸夫 / オーケストラ:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団)のソリストに招かれ、スタンディング・オベーションと絶大な賞賛を得た。また、同年日本初となる「100チェロ」公演をすみだトリフォニーホールで行い、大成功を収めた。

日本語サイト
http://plankton.co.jp/sollima/

Official Web Site
http://www.giovannisollima.org



三味線奏者
野澤徹也
洗足学園音楽大学と現代邦楽研究所の三味線講師を勤める。受賞歴は2005年東京邦楽コンクール第一位他多数受賞。CDは『三味線独奏曲集』(TYサポート受賞作品)の他19枚リリースしている。2013~2018年のNHK Eテレ「にっぽんの芸能」主題曲と挿入曲の三味線を担当。 2017年に演歌歌手・五木ひろしコンサートに参加。 2018年にNHKラジオドラマ「料理人季蔵捕物控(西田敏行主演)」、「罵詈雑言忠臣蔵(尾美としのり主演)」の三味線を担当。 2019年には伝統文化振興財団よりCD『杵屋正邦作品集』リリース。野澤徹也三味線合奏団主宰。
CD『野澤徹也 / 杵屋正邦作品集』が令和元年度(第74回)文化庁芸術祭レコード部門において優秀賞を受賞!

15年前の初演時は、委嘱初演者の西潟昭子先生のリサイタルで私自身、他の曲に出演するため、リハーサルを何度か拝見していました。まさか自分がこの曲をやるとは夢にも思わなかったです(昨年の夏の時点でもまったく予想もしていなかった)。
今回、演奏の依頼のお話をいただいたときは、嬉しさと怖さと好奇心が交差しましたが、ソッリマさんと共演させていただく機会も二度と無いと思い、楽しんで演奏したいと思います。
曲はスケールが大きく、絃楽器の良さがとても出ていて弾き甲斐があります。
このコンサートを迎えるまでの過程で、自分自身が更なる脱皮出来そうな期待を持っています。そして出演後、自分自身の変化も楽しみです。




指揮
ユキ・モリモト(森本 恭正)
1987年よりENSEMBLE 9音楽監督として主にウィーンを中心にYUKI MORIMOTO名で作曲・指揮活動を展開。現在ソロ作品から管弦楽曲まで190余作品を数え、その殆どが著名ソリストらによりヨーロッパで初演されている。指揮活動では、自作品の指揮の他、その対象はバロックから現代作品にまでわたり、日本では、初期の三枝成彰作品の多くを初演。2009年より活動拠点を東京にも広げ、同年より2016年まで有明教育芸術短期大学教授。今回再演されるジョヴァンニ・ソッリマ作曲「Theory of the Earth~三味線とオーケストラのための~」(三絃:西潟昭子、チェロ:ジョヴァンニ・ソッリマ、洗足学園大学フィルハーモニー管弦楽団)の初演指揮(2005年)も務めた。ソッリマとは15年ぶりの邂逅である。

地球の論理―ジョバンニ・ソッリマ作曲

 2019年、スウェーデンの勇気ある少女が地球環境保護を訴えて、大量に化石燃料を消費する航空機での移動を拒否、NY国連総本部からの招きに、ヨットで大西洋を渡った。航空機の自然環境に対する影響に、私も含めてこのとき初めて気づかされた人も多いだろう。
人類が、民間旅客輸送手段としての航空機を手に入れて、もうすぐ90年になるという。航空機によって世界は身近になった。East meets West。洋の東西は出会いやすくなった。少なくとも時間的には。
 西アジアに生まれた弦楽器の祖先は東と西の二手に分かれて地球を巡った。東はインド、中国を経て日本へ。西はジブラルタル海峡を渡ってスペインから西ヨーロッパ、そしてシベリアへ。前者の伝播は太平洋を前にして途絶え。後者はシベリアの永久凍土で止まった。
東周りの最終地点で生まれたのが三味線である。下座音楽の雄として、江戸時代の舞台芸術を支えた。一方西周りで、ヨーロッパ音楽の覇者となったのが、ヴァイオリンやチェロなどのヴィオール属といわれる弦楽器だ。だが、洋の東西の演奏家が世界を飛び廻るようになっても、両者の出会いはなかった。ジョバンニ・ソッリマ以前にヨーロッパで三味線と弦楽オーケストラの為の協奏曲を書いた人はいない。
 ソッリマはシチリア島に生まれ、シチリアに根を張って躍動している作曲家・チェリストである。シチリアは過去に何度も侵略という不幸な形で、東の文化と出会っている。その中心地パレルモは、かつてイスラム文化の中心地として栄えた。正に東西文化の融合地点である。
恐らく、2005年日本に来るまで三味線に触れたことすらなかった彼の中には、既に東の何かと融合する準備ができていたのではないかと、ふと想う。そうでなければ、ふつう未知の楽器に曲は書けない。では、彼が共振したかも知れない東の何かとは何を指すのか。それは、楽器としての三味線を特徴づける、ビーンと響く音「サワリ」ではないだろうか。
実は、西ヨーロッパで誕生した弦楽器の祖先は、皆「サワリ」を持っていた。楽器伝播の東周り組は、皆このサワリを付けたまま地球を周り、西周り組は、アフリカからジブラルタル海峡を渡ってスペインに入ると、和音の響きの妨げになるという理由からか、このサワリを落としてしまう。ビーンというあの渋いノイズを手放してしまうのだ。20世紀にはいって、ロックバンドがエレクトリックギターにディストーションという音を歪ませる装置を使い始めるまで。
地球をとりまく環境の劣化が進むと、航空機での移動も制限されるようになるだろう。冒頭の少女が、日本へやってくることはもうないかも知れない。東と西は簡単に出会えなくなる。
しかし、本来地球とはそういうものなのだ。
その不便さが何がしかの成熟を人類にもたらすのではないだろうか。
「地球の論理」というタイトルの、この作品の持つ音楽が、その暗喩に聞こえる。

森本 恭正(Yuki MORIMOTO)



洗足学園ストリングオーケストラ
コンサートミストレス 水野佐知香
洗足学園音楽大学のフィルハーモニー管弦楽団を母体に今回特別に編成されたストリングオーケストラ。洗足学園フィルハーモニー管弦楽団は、ジョヴァンニ・ソッリマ作曲「Theory of the earth~三味線とオーケストラのための~」の初演(2005年)のオーケストラであり、同公演はCDにも収録された。