~螺旋の渦~「青柳」 公演レポート

リアム・オ・メンリィ特別公演 ~螺旋の渦~ 「青柳」

2025/12/5[金]草月ホール

開場18:15 / 開演19:00
Cast
  • リアム・オ・メンリィ
  • O B A
  • ザ・ステップクルー・トップ3 with ダン・ステイシー
    • キャラ・バトラー
    • ジョン・ピラツキ
    • ネイサン・ピラツキ
    • ダン・ステイシー
  • ユザーン
  • 佃 良太郎
  • 坂本 弘道

セットリスト

1st set
  1. Liam Solo
  2. Bean Phaiolin (+O B A、ユザーン)
  3. Séamuisín (+4 Dancers、ユザーン、坂本弘道)
  4. Christ Charch Bells (+ユザーン、坂本弘道)
  5. Sadhbh Ni Bhruinneallaigh(+4 Dancers、ユザーン)
  6. Feel Like Living (+ユザーン、坂本弘道)

2nd set
  1. Bríd Óg Ní Mháille (+坂本弘道)
  2. Eithne (+坂本弘道、佃 良太郎)
  3. An Raibh Tú ar an gCarraig? (+O B A、坂本弘道、佃良太郎)

Encore
  1. Tune (+ユザーン、坂本弘道、C・バトラー、N・ピラツキ、D・ステイシー)
  2. Stand Beside Me (+ユザーン、坂本弘道、ジョン・ピラツキ)

Photo by 石田昌隆
公演レポート 1 公演レポート 2 プロデューサーより 公演写真

公演レポート

文・写真:松山晋也/Shinya MATSUYAMA

 すみだトリフォニーホールでの今回の〈ケルティック・クリスマス2025〉は、各人の持ち時間、組み合わせ、演目など、非常にバランスの良いステージ構成が見事だったが、制作陣の根気強く丁寧な仕事ぶりと情熱という点では、すみだのケルクリの前日(12月5日)に青山の草月ホールでおこなわれたリアム・オ・メンリィの特別公演「螺旋の渦~青柳」はそれ以上だったと思う。
 これは、アイルランド/ケルトの精神性を象徴する存在であるリアムと日本人音楽家たちのコラボレイション企画で、後半は、NHK朝ドラ「ばけばけ」で現在話題沸騰中の小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の怪談「青柳」をモティーフにしている。

  共演者はタブラ奏者のユザーン(U-zhaan)、チェロ/ミュージカル・ソウ(のこぎり)の坂本弘道、能鼓の佃良太郎、そしてモダン・ダンサーのオバ(Oba)という日本勢にアイリッシュ・ダンサーたち(ザ・ステップクルー・トップ3+ダン・ステイシー)。ジャンルもスタイルもまるでバラバラな上、主役のリアムが制御不能出たとこ勝負の自由人。プロデューサーの川島恵子さんから最初この企画のことを聞いた時、いったいどんなものになるのか、いや、実現可能なのかと私は心配した。夏に別件で来日したリアムにこの企画について質問した時も、まったく何も考えていない状態であり、「音楽を通じて新しい出会いがある。それだけで俺にとっては勝利なのだ」みたいなことをドヤ顔で言っていたし。結局演目すら決められず、グダグダの即興ステージになるんじゃないか…。

  ところがフタを開けてみたら、なんとも美しく、起伏に富んだマルチ・カルチュラルなパフォーマンスが繰り広げられたのだ。きちんとした構成に則りながらも、随所で各人のフレキシビリティが発揮され、アイルランドと日本、両文化の古層の共振がしっかりと表現されている。リハをやるたびに演奏時間も曲のキーもころころ変わってしまうリアムに坂本やユザーンたちも面食らっていたらしいが、どんな局面でも即座に対応し、物語を作り上げてしまう彼らの柔軟性と演奏技術がこのコラボを成功に導いた大きなポイントだったのではないかと思う。オバの研ぎ澄まされた肉体の美しいモーションと佃良太郎の鼓の鋭い一打には、確かに青柳の精霊が宿っていた。

 ここまで仕上げるまでに、制作陣とリアムの間ではかなりの駆け引きや衝突があったのではないかと想像するが、終演後にリアムと話したら、本人も興奮ぎみに「最高のステージだっただろう?」とすこぶる満足げに語っていた。こういう体験は、完全フリーハンドが信条のリアムにも新たな自信を与えたはずだ。

  あと、この日は空間設営の美しさも特筆ものだった。背景に垂らされたジャバラ状カーテンのような巨大な布にはリアムが描いたたくさんの絵や風景写真、リアルな演奏映像、「青柳」のメッセージなどが投影され、ステージ上には草月ホールにぴったりな花/樹木のアヴァンギャルドなオブジェも。そういったすべての要素がカチッとはまり、相互フィードバックしたがゆえのパーフェクトさだったと思う。


公演レポート

文:藤井真也

 東京・赤坂の草月ホール。ステージ奥には天井から40mもの巨大な白い布が吊り下げられ、周囲には流木などを使った樹木のオブジェが配置されている。この舞台の設えからも、この公演が特別なものだということが伝わってくるようだ。

 リアム・オ・メンリィ特別公演『螺旋の渦〜青柳』。タイトルにある『青柳』とは、現在NHKで放送中の連続テレビ小説『ばけばけ』のモデルとなった、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの代表作『怪談』に収録された、日本の古い民話を元にした物語。若い武士と、青柳と名乗る若い娘、実は柳の木の精の化身との、現世と異界を超えた哀しく儚い悲恋を描いて人気が高い。

 八雲がこうした日本の不思議な民話や伝承を収集し『怪談』を書くまでに強く惹かれた背景には、あの世とこの世、死と輪廻、様々な妖精や精霊たちが常に身近に感じられる数多くの不思議な物語を古くから伝えてきたケルト文化の国、アイルランドで幼少期を過ごした影響がとても大きく、アイルランド人と日本人との間に、「見えないもの」に対する深い敬意と関心、共通した精神性を感じていたからに他ならない。

 公演は2部構成。第1部「Tokyo Encounter」では、カナダ・オタワヴァレースタイルのアイリッシュダンスの達人たち、ザ・ステップクルー・トップ3withダン・ステイシーや日本人アーティストも加わって、リアムが得意とするケルト音楽の数々を繰り広げた。

 休憩を挟んで、いよいよ第2部「青柳」が開幕。
 暗いステージから、静寂を破ってまず響いてきたのは「ヒュウ〜〜ン」という不思議な音色。アグレッシブなチェロ奏者、坂本弘道が演奏するミュージカル・ソウ。刃のない西洋ノコギリ形の鉄板をたわませながら弓で弾く楽器。それはまさに音で聞く「幽玄」そのものだ。

 再び静寂の中、そっと語りかけてくるような優しいタッチでリアムがピアノを弾き始める。最初の曲は『ブリジッド・オー・モリー』。最新アルバム『プレイヤー』にも収録された、アイルランド伝統音楽の中でも特に美しく哀愁にあふれたメロディと言われるスロー・エア。恋人を失った若い男性が、彼女への尽きない想いを自然の美しさになぞらえて歌う哀しい恋歌だ。

舞台奥の白い布に、「言葉」が投影されていく。


 「青柳」
 雪の荒れた地を歩く
 寂れた村
 君に逢う

 「青柳」
 遠い昔、
 人々は自然の只中で生きていた
 木々は、天と地を結ぶ架け橋

 青柳」は
 この世とあの世を結ぶ
 樹木の妖精
 全ては樹木から生まれた

 文:川島恵子


 切なく深く響くリアムのボーカル、それに寄り添う美しいピアノとミュージカル・ソウの幽玄な対話が、舞台から波紋のように広がっていく。

 だがこの公演は、「青柳」の物語の音楽による再現を目指してはいない。背景に投影された言葉も、物語の世界観を伝えるものにすぎない。八雲がこの物語に込めた思い。ケルト文化と日本文化が共通して精神の根源に持っている自然と樹木への畏怖と崇拝、「あの世とこの世」「見えないもの」への深い敬愛。そうした想いに共感した、アイルランドと日本の優れたアーティストたちが、樹木へのオマージュと、失われて行くものへの鎮魂のレクイエムを、一夜限り、まさに一期一会のパフォーマンスで伝える渾身のセッションなのだ。

 2曲目は『エヘネ』。リアム作曲の最新アルバム収録曲。題名は彼の母親の名から。母の慈悲深い愛を歌う、大地の遥か奥底から聴こえてくる祈りの歌のような低音の旋律が、荘厳でスピリチュアルな響きでホール全体を包み込んでいく。


 そしてまた、「言葉」が投影される。


 ある日、「青柳」が伐採された
 愛する日々が消えた
 樹木の精霊に捧ぐ
 レクイエム「青柳」

 文:川島恵子


 加えて投影されたのは、公演フライヤーにも使われたリアムが描いた柳の木、「青柳」の絵だ。

 舞台に能楽師囃子方、高安流大鼓方の名手、佃良太郎が大鼓を持って袴姿で登場。スピリチュアルなケルトの旋律に、能楽の掛け声と、大鼓の硬質な音が加わってくる。それは青柳が生まれ育った深い山里を思わせる木霊のようにも聴こえる。
 ケルトの音楽と、日本の伝統音楽との出会い。ぶつかり合うのではなく、互いに共感、融合しあって、どこにもない音楽が創り出されていく。

 東洋的な響きを持ったスペイン音楽を思わせる哀愁を秘めた旋律。リアムの繊細なピアノソロから始まる3曲目は『ア・ラヴ・トゥ・アラン・カリグ』。あの岩場にいたのか? という題名を持つ、愛しい人に密かに会いにいくことを歌った、最新アルバムにも収録されているアイルランド伝統音楽の名曲中の名曲だ。

 リアムのピアノも、次第に左手の強いタッチの低音が音楽を雄弁に主導するようになり、テンポが少しずつ上がっていく。「いょほおーっ、カーンッ!」掛け声とかん高く硬質の大鼓の音はさらに勢いを増し、リアムの歌のゲール語と日本語の掛け声が激しく響き合い、せめぎ合う。
 旋律が渦を巻くように最高潮に達すると、一転、ステージに静寂が訪れる。再びリアムの繊細なピアノ。それをインドの民族楽器、タブラ奏者のユザーンが、音程の付いたリズムでそっと支える。

 ここに静かに登場したのは、ダンサーのO B A。手足の細かい動きが、全身へとしなやかに広がって大きなダンスになっていく。植物が地面から芽吹き、成長していくような生命力にあふれた踊り。
 ダンサーと同時に、庭師としても活動しているOBA。常に植物、樹木、自然に接している彼だからこそ表現できる植物の命と心が見えてくる。
 そのダンスの動きと呼応するように、リアムのピアノ、大鼓、タブラ、チェロは、阿吽の呼吸で絶妙のセッションを繰り広げていく。

 OBAは一人で踊っているのに、若者と青柳、二人の幸せな愛の日々を描き出す。しかしある日突然、青柳は倒れ、若者の腕に抱かれたまま消えてしまう。深い悲しみと強い心の痛み、チェロのピチカートとタブラの哀しい音色が寄り添う。
 慟哭の表情が、手を合わせて祈りを捧げる姿に変わっていく。ピアノ、ミュージカル・ソウ、タブラが奏でる鎮魂のレクイエム、祈りの音楽の中をゆっくり、ゆっくりと歩みながら、O B Aはステージから静かに消えていった。

 アルバムでは18分を超える大曲。リアムがピアノの最弱奏で奏でる、深い悲しみの和音がささやくように響き、そして、長い、長い静寂。深い余韻を残して、公演は終わった。

 日本人とアイルランド人の心を結んだ小泉八雲の「青柳」の世界を、アイルランドのリアムと日本の才能あふれるアーティストたちが互いに共感し、心を一つにして音楽と向きあったたった一夜だけのコンサート。まさに一期一会の贅沢なセッションを体験できたのは、本当に貴重だった。


プロデューサーより

文:川島恵子/Keiko Kawashima

今年のケルクリにおいでくださった皆様、ありがとうございました。
ケルクリ2025番外特別版ともいうべき「青柳」@草月ホールの企画について、少し、書きます。

 ケルトを届けるにあたり、私には2つの思いがあります。
一つは「人と人を結ぶ場」を作ること。
さまざまなケルト音楽家たちの日本での邂逅、音楽家と聴衆の出会い、さらに、キャリアも年齢も超えて、見知らぬ人同士が出会い、自由にセッションする「喜びの場」を作ることでした。

 もう一つは、アイルランドと日本に共通する精神性を伝えること。輪廻や死者、先祖への思い、あの世とこの世を結ぶ想像性のある文化を伝えたい。
「青柳」は昨年の「雪女」や数年前の「鷹姫」につづいて、私がプロデュースさせていただきました。自然と人間の関係を表現し、自然への畏怖と崇拝を綴りました。
通常、リアムは演奏曲も決めずに、2時間を好きに自由に歌うスタイル。でも、今回はテーマを決め、演奏者や楽曲を構成することで、逆にリアムの音楽の幅の広さやソウルフルな歌の深さがより表現できるのでは、と枠を作った。そして、リアムの樹木に対する深い敬愛には、「青柳」というテーマがぴったりだと考えました。

 一部は東京での「Tokyo Encounter」とし、アイリッシュ・カナダのダンサーたちを迎え、日本の音楽家たちとのセッションで、リアムのゲール語の歌をさまざまに展開。ソウル爆裂の「Feel Like Living」は圧巻でした。

 二部は「青柳」。1年半前にリアムに立案し、さらに、日本人の音楽家たちの編成、ダンサーを提案しました。リアムからはほとんどリアクションのないまま、数ヶ月すぎたある日、突然彼から「柳」の絵が送られてきて「この企画はとても好きだ」と、たった1行の返事(笑)。この柳をチラシに載せ、ようやく企画がスタートしました。
何をどうやるか? 構成・曲案・美術・ストーリー展開はどうするか? といった具合で、通常の公演とは段違いの組み立て難易度に悩みました。
楽曲は、リアムの新作「プレイヤー(祈り)」のメッセージから提案しました。ダンスのOBAさんは楽曲に合わせ、舞の構想を練り、一年以上自身でリハを重ね、当日は恐ろしいほど極まった「青柳の精」の死を表現してくれました。
坂本弘道さんやユザーンさんは3日前に、リアムと「初めまして」の握手。どの曲に誰が入るかも未定のまま、とにかくやってみる。流石に達者な辣腕音楽家たちで、演奏する度にサイズも進行もキーさえも違う、リアムの自由性にあきれながら対応してくれて、当初は数曲参加の予定がどんどん増え、ほぼ全曲に参加することに。佃良太郎さんの大鼓は空気を破り、魔物を呼びさまし、坂本さんの幽玄なノコギリが絡み付きました。よくぞ3日で仕上がったものです。おそらく、次回もまたサイズから表現まで、なにもかもが変わることでしょう。皆さんにはご苦労をおかけしました。

 舞台上には弊社のスタッフが作成した巨大な布(40m)が、OreOさんによって設営され、そこに「青柳」のメッセージとリアムが描いた数十枚の絵を投影。美しい空間を作ることができました。樹木オブジェ・デザインの佐藤俊輔さんはじめ、舞台、映写スタッフの皆さんに感謝。
今年はこの「青柳」が聴衆のみなさんに評価してもらえて心底、嬉しかった。リアム・オ・メンリィに喝采! 素晴らしい歌と演奏に心が震えました。 来年、ビデオを編集します。

「青柳」 
雪の荒れた地を歩く
寂れた村
君に逢う

「青柳」
遠い昔、
人々は自然の只中で生きていた。
木々は、天と地を結ぶ架け橋

「青柳」は
この世とあの世を結ぶ
樹木の妖精
全ては樹木から生まれた

ある日、「青柳」が伐採された
愛する日々が消えた
樹木の精霊に捧ぐ
レクイエム「青柳」

(「青柳」原作:ラフカディオ・ハーン)

公演写真

写真:石田昌隆/Masataka Ishida

主催:地球音楽プロジェクト実行委員会 / 招聘・制作協力:プランクトン
後援:駐日アイルランド大使館
助成:(公財)関西・大阪21世紀協会
協力:草月会館/小泉八雲記念館/Irish Network Japan/CCÉ Japan/THE MUSIC PLANT